夢物語【完】
「てかさ、高成って裏表あるやんね?」
ようやく落ち着きはじめたあたしは気付いたことを口にした。
確かにキャラが二つある。
さっきも話し方が強くなって怒ってますって感じ。
初めて喋った時みたいな口調。
あの時は冷たくて無愛想で無口で、てのが強かった気がする。
そのあと、連絡を取るようになってから口調が優しくなったような気がする。
「そう、かな?」
見上げた横顔に少しの焦りの色が見える。
気になるから興味本位で口走って泣きを見るのがこのあたし。
「あたしに素は出せん?」
ぴくっと反応した手にゆっくりと下ろされる視線。
その瞳にヤバイと感じたのも時すでに遅し。
「素の俺でいいの?」
せっかく抑えてんのに、と顎に添えられた右手によって視線を合わせられる。
「素の俺を出したら涼介以上だよ」
離された手がおりて左手があたしの右手を捕える。
歩きだした高成に一歩後ろからついて歩くあたしは意味がわからんまま。
高成の言う“涼介以上”がどういうことであれ、この返事は認めたってこと。
しかし雰囲気が180度変わる。
裏高成に免疫のないあたしが攻略するには表高成をまずクリアせんことには無理やろう、と思った。
でも、
「どういう意味かわからんけどさ、なんか前に戻ったみたい」
「……初めて会ったとき?」
「うん、高成むっちゃ無愛想でイラッとしたもん」
「あー、...ね」
「どういう理由であれ、あたしはどっちもいけるって話!高成は高成やし」
「・・・」
「高成ならなんでもアリやねんけど」
あたしの言葉を一通り聞くと立ち止まる足。
どうした?と覗くと無表情。
「涼は素直でその言葉にたまに凹むんだけど、絶対浮上もさせられる」
「………?」
あたしは高成がわからん、それが正直な気持ち。
相変わらず難しい。
「涼には勝てない」
「なにを?」
わからず聞いたあたしに高成はまた苦笑して、あたしの手をひいて歩きはじめた。
「高成?」
「秘密」
「…ふ~ん」
なんでもアリって言うた手前、しつこいのもどうかと思って聞くのをやめた。
悪い意味じゃなければいい。
てか、高成ならなんでもいい。
あたしは高成の手を握り返した。
「ふ~んって……俺に興味なくなるってのも寂しいね」
その先は言わんかったけど、適当人間同士ってことも気付いた。
昨日の今日でかなりの進歩で距離も近くなったと思う。
裏表のある高成もこれからは裏もちょいちょい出してくるんやろう。
家を出たとき思ったみたいに近々あたし達にも文句を言い合える日が来ると思う。
それくらい互いに遠慮がなくなるくらい近くなればいい。