夢物語【完】

「あ!京ちゃん、ナリくん来たよ!おはよ~!!」

集合時間の3分前に着いたあたし達はすでに待ってたメンバーに迎えられた。
その一番はもちろん冒頭の声で、昨日とは全く違う雰囲気をまとった京平の彼女で、一瞬戸惑った。

「京、ちゃん……?」

あたしの呟きに昨日同様、舌打ちをした京平に笑いを堪えてる悟さん、我関せず状態の涼介、苦笑気味の隣の高成。

不本意やけど嫌ではないらしい京平はタバコに火を付けて気をまぎわらせ始めた。
そんな姿がおかしくて笑ってしまった。

「笑った顔、超可愛いです!」

そう言ってくれたのは他でもないあの京平を黙らせる例の彼女で目の前まで来ると頭を下げた。

「昨日は意地悪してすみませんでした」

間近で見ると肌もすんごい綺麗で目も大きくて同性から見ても可愛いと言える彼女の瞳があたしに向けられる。

こんな綺麗な人にアップで見られると自分とのあまりの違いに恥ずかしくなって一歩離れた。

「お、怒ってますか?」
「ち、違う!違いますから!怒ってない、から。こちらこそ、ごめんなさい。…ありがとう」

一歩下がったことで怒ってると思ったのか泣きそうになる顔に慌てて昨日のお詫びとお礼を伝えた。

高成とこうして歩くことができたのは彼女のおかげでもある。
そうじゃなかったら自分の中途半端な気持ちに流れたまま本音も言わんと過ごしてたと思うから、すごい感謝してる。

「よかった!!」
「?!」

突然のハグに一瞬よろけそうになって踏ん張った。
彼女は彼女なりにあたしのことを心配してくれてたんやって思えて、その気持ちが嬉しかった。

あたしだけじゃなくて、彼女は京平のことも含めてこのバンドがすごい好きなんやな、てことも伝わった。
だから昨日のセリフ言えたんやって思った。

彼女を見習わんとあかん。
高成のことだけじゃなくて、バンドのことも、メンバーのことも考えられるようになりたいって思った。

「更科 陽夏です。よろしくお願いします、涼さん」

“さん付け”?一瞬止まると「俺らの2つ下だから」とあたしの心を読んだ高成が教えてくれた。

「え、年下?!」

そうですよ~、と可愛い顔で笑ってくれる陽夏ちゃんに驚くしか出来んくて、自分の許容範囲の狭さと思考の回路の少なさに悲しくなる。
付き合ってる年月と恋愛偏差値の違いはこういう所で出てくるらしい。

ふと視界に入った京平は目が合うとバカにしたように鼻で笑った。
イラッとしたけど今回は仕方ない、あたしの完敗。

「涼さん、私行きたいところあるんですけど、連れて行ってもらってもいいですか?」

それに礼儀正しい。
あたしが陽夏ちゃんの立場なら完全に上から目線で喋ってると思う。

「陽夏ちゃん、“さん付け”やめて。敬語使われると恥ずかしいし、涼でいいから」
「呼び捨てだと京ちゃんに叱られるから涼ちゃんで!いいよね?京ちゃん」

好きにしろ、と言う京平は陽夏ちゃんに対して相当躾が厳しいらしい。
親みたいで笑ってしまう。
目が合った高成も苦笑してた。

じゃあ行こう!とあたしの手をひいた陽夏ちゃんはやっぱり可愛くて妹がおったらこんな感じなんかな、て思った。

「ナリくんに頼まれてたんです」
「...え?」

突然の言葉に話が見えんくて返事が遅れた。

「もしお前らの時みたいな状況になったらカマかけてくれって」
「どういう意味?」

陽夏ちゃんは苦笑して、京ちゃんにもナリくんにも言わないで下さいね、と前置きして話しはじめた。
< 63 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop