夢物語【完】
「私、京ちゃんの高校の後輩なんです。バンド結成前から憧れてて彼女いないって聞いた時点で猛アタックしたんです」
最初は全然相手にしてもらえなくて辛かった。
やっと連絡先を聞けたと思ったらメールも電話も返事無し。
一人でがむしゃらに足掻いてて悔しかったし悲しかった。
「でもだんだん京ちゃんからも連絡くれるようになったんです」
「すごいね…」
恐るべし女子高生のパワー。
押せるところがあたしにないとこで羨ましい。
「すごくないですよ。京ちゃんはその頃からすごくモテてましたから、そのくらいしないと目にとめてもらえないんです」
多分、あたしが想像してる以上の規模なんやろう。
学年のモテ男とか比べもんにならんはず。
京平でそうなら高成だってそうやったに違いない。
「ナリくんはモテるんですけど、京ちゃん以上に無愛想で誰も近付かなかったんです」
読まれた?!と思えるくらいドンピシャなタイミングの言葉に一瞬動揺した。
それもバレたらしくてクスクス笑われた。
「だから話を聞いた時は驚きましたよ!あのナリくんが自分から行くなんて初めてでしたから」
京ちゃんもそのくらい積極的だったら楽なんだけどな~、とぼやいた。
急に自分達の話に変わって思わず赤面した。
「見た目は全然違うんですけど、私とナリくんって似てるんですよね。思い立ったが吉日って言うか、先んずれば人を制すって言うか。結果がどうであれ“考えるより行動”なんですよね」
なるほどね、て納得はしたけど、それがその話とどう繋がるんかが全くわからん。
もちろんその話には続きがあって、
「だから周りが見えなくなるんです。私の場合は連絡取れたからって調子にのって友達もメンバーも京ちゃんも私一人のために振り回されてるってことに気付かなくて、全部めちゃくちゃにしちゃったんです」
それが原因で涼介くんからは嫌われてるんです。自業自得ですけど、と寂しそうに言った。
まさに“恋は盲目”ってヤツ。
これが原因であんなに気が回るようになって、京平自身も責任感じて陽夏ちゃんをしつけるようになった。
詳しく何があったとは聞かんくても陽夏ちゃんの表情から感じとれた。
陽夏ちゃんは涼介に嫌われてることで重さを理解してる。
いつか涼介も陽夏ちゃんを許してあげられる日が来たらいいのに、と素直に思った。
「それだけじゃないです。昨日の涼ちゃんみたいな時も、もちろんありました」
でもアレ以上に酷かったですよ、と笑う。
「本当酷くて、京ちゃんは一方的に連絡切っちゃうし、私は“絶対、恋だ!”って言い張ってずっと平行線ですよ。涼ちゃんは自分で気付かれましたけど、私は気付かなくて京ちゃんが気付いたんです。で、私はもちろん京ちゃんの言葉の意味を考えようともしなかったから、気付いたときにはどうにもならないくらい拗れてて」
一度別れてるんですよ、とまた笑った。
そして、あたし達が二の舞にならなくてよかった、と笑ってくれた。
「陽夏ちゃん、今20歳やんな…?」
なんか怒濤の恋愛遍歴に驚かされるばっかで思わず確認してしまう。
あたし、その時なにしてたっけ?とか思わず考えてしまうくらい。
陽夏ちゃんは今もこうして京平の彼女としておるってことは当然拗れた糸がほどけたってこと。
あたしの場合は一方的に絡めてほどいてもらった気がする。
本気の修羅場を乗り越えてきた本家の人とはレベルが違う…と思わず顔が引きつった。
あたしはまだまだ甘ちゃんなんやな、と理解した。
「タイミングが悪かったんです。ちょうど京ちゃん達がメジャーデビュー決まったときに告白したから誤解招いちゃったんですよね」
「え、待って待って。それまでの期間は?伝えてなかったわけじゃ…」
「それがぶつかるだけぶつかって言ってなかったんです~」
可愛いというか抜けてるというか天然なんかはわからんけど、そりゃさぞ大変やったでしょうね、と苦笑するしかなかった。
「あ、呆れてます?私も今思えばバカだったなって思います」
「呆れてはないけど、あたしは陽夏ちゃんにすごい感謝してる。昨日あんな風に言うてもらわんかったら絶対流れに乗って気付かんフリし続けてた。高成には申し訳なさでいっぱいやけど、陽夏ちゃんには助けてもらえたから」
そんなこと言ってもらえるなんて照れますね、とはにかんだ顔は少し赤くて、京平に目配せすると微笑んでもらえて嬉しかったのか笑顔に変わった。
そんな二人を羨ましいと思った。
やっぱり障害を乗り越えた恋人は絆が強い。
あたしと高成はまだ始まったばかりでこの先何が起こるかわかわんけど、この二人みたいに強くしていこうって目標が出来た。
「涼ちゃんって、本当に特別なんですよ」
「なにが?」
急に話が飛んでまたわからんくなった。
あたしが特別って、そりゃ特別でしょう。
こんなにも余るくらいにおる女の人の中で高成の彼女のポジションにおんねんから特別じゃないわけがない。
それは陽夏ちゃんだってそうやし、他の女の子だって好きな男の人の彼女になれたら絶対“特別”って感じるはず。