夢物語【完】
「高成には最高のパートナーだよ」
「悟さん」
「僕は最初から涼ちゃんだけを思ってたよ」

無意識にしては罪作りな男性やなって思う。
今の言葉は前置きがなかったら確実に誤解してる。
もちろん、あたしが。
だからって「それ、口説き文句ですよ」とは言えん。
無意識って怖い。

特に悟さんみたいなフェロモン垂れ流し状態の男の人に言われて勘違いせん女なんかおらんと思う。
自分の発言に全然気付いてない悟さんはニコニコしたままあたしを見てる。
奥さん苦労してそうやな、って思った。

「ナリは涼ちゃんにしか扱えないし、涼ちゃんしか見えてない。涼ちゃんが大好きでどうしようも、」
「もういいだろ!」

振り返った先に見えた表情にもうちょっと聞きたかったなぁ、と思った。
隣の悟さんはまた嬉しそうに笑って、今度は「本当の事じゃん」とからかった。

「うるさいよ」
「素直じゃないね」
「なにがだよ」
「涼ちゃんとより戻せて嬉しいんでしょ?」
「一度も別れてねぇよ」
「泣いてたくせに」
「泣いてねぇよ!俺がいつ泣いたんだよ!」

え、あの時泣いてたんじゃないの?と笑った悟さんは完全に中学生みたいやった。

悟さんが高成を可愛がるのは高成も悟さんを頼るからで義兄や義弟なんて関係なくて元々兄弟みたいな感じなんやと思う。

あたしが最初に思ったファミリーな感じってこうゆうとこから滲み出てるんやと思う。

高成と悟さんのやり取りは面白くて、意地悪に高成の弱音をバラす悟さんに感謝して、それを聞いたあたしは高成に申し訳なさを感じて、でも嬉しくも思った。

「ね?ナリは泣いちゃうくらい涼ちゃんが好きなんだよ」
「だから泣いてねぇっつってんだろ!」
「好きだってとこは否定しないんだ?」
「否定する必要ねぇだろ」

右隣の悟さんは視線を同じ高さまで下げて教えてくれたのに高成がすかさずツッコんだから返事ができんかった。

それと、高成の言葉に顔を赤くさせざるを得んくなった。
高成のストレートな言葉はドキドキする。

「なに顔赤くしてんねん、アホ」
「?!」
「自惚れてんな」

スッと隣に並んで暴言を吐いたのは見かけ倒し男。
愛想はいいけど腹黒男。
横目であたしを蔑むように見て笑った。

それを見て流れを無視したコイツを睨んだ。
だって今の流れは高成が隣におる流れやろ?

高成の言葉にドキドキして、高成が隣におって、高成が好きや~ってなるとこやん?

「夢見すぎじゃボケ」

間違ってもアホやボケや言うような男が隣におる予定じゃなかった!!
だいたいコイツには一切用事ないし、一番前で先頭きって歩いてたくせに、なんで今は隣におるんかがわからん。

わざわざ話すために下がってきた?
それとも、わざわざ文句言いにきた?

迷わずとも後者っぽいけど、昨日初めて会ってろくに喋ってもないのにこの言われ方は常識はずれやと思う。
完全に見下されてる。

「なんか言うことあるやろ」

でも、昨日から今日にかけて一番迷惑かけてる人であることには違いない。

昨日の夕食の時もプチ騒動の時も今朝?も一番害を被ってるのはコイツに違いない。
いや、そうだ。
だったらあたしはコイツが…いや、この方が言うように言うべきことがある。

全ての元凶はこのあたし。
あたしに振り回されてるメンバーに一人ずつ頭下げても足りんくらい迷惑かけてる。

言葉遣いに苛立ってデカイ態度とってるような立場じゃない。
間違ってるのはあたし自身。

「……ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
いつの間にか最後列で歩いてたあたし達は立ち止まって頭を下げてても誰ともぶつかることはなく、その代わり周囲の通行人から不思議な目で見られてちょっと恥かしい。

「全然足らんけど今回は許したるわ」

……わかってる。
あたしが悪いってわかってる。

でもこの上から目線の物言いと見下した目つきが無性に腹立つのは抑えれんかった。

「涼介、さん」
「さん付けすんの躊躇すんなよ」
「涼介さん」
「違う違う、“涼介様”だろうが」

あーもーめんどくさすぎる。
こんな面倒な奴やと思わんかった。
だから、思わず出た。

意図的じゃない。
故意的にでもない。

ただの生理現象だ。

「うざい…」

さすがの涼介様もまさかの発言に開いた口が塞がらないようで、さっきされたように勝ち誇った顔で笑ってやったら握りこぶしが頭上から落ちてきた。
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