夢物語【完】
「ね、京ちゃんコレ頼んでいい?」
「なぁ、これウマない?」
「こら、迷い箸はダメだよ」
「涼、何か食いたいのある?」
「…や、今はいい」

焼肉屋へ来てからというもの、全員が自由すぎて置いてかれてるような気がする。
さっきから全員が喋ってて誰が誰に話し掛けてんのかわからん。

育ちも環境的にもこういうのには秀でてると思ってたけど、世の中うまい具合に出来てて、上には上がおるんやで、と空気が教えてくれる。

「涼、食うてるか?」
「まとまりがなくてごめんね?」
「あ、涼ちゃん!これ一緒に食べません?」

唯一、黙々と食べ続けてるのは京平。
多少機嫌の悪さもあるんかもしれん。

さっきから高成を差し置いて涼介と隣に座ってる陽夏ちゃんが引っ切りなしに話し掛けてくれて、お肉を口に入れるタイミングがわからん。

皿には盛られた肉の山。
なぜか前に座ってる高成は呆れた顔にも眉間にはシワが見える。

陽夏ちゃんの隣に座ってる京平も同じ顔してるんやと思うけど怖くて見れん。
不機嫌の理由は確実にあたしという自信がある。

斜め前で高成の隣に座る涼介は相変わらず箸は止まらん。
もちろん口もやけど、さっきのプチ喧嘩から親近感を覚えたんか親しくしてくれる。
それは嬉しいけど高成とも話したい、ていうのが本音。

悟さんは向かい合った端同士で、もはやあたしの視界にすら入らん。
真ん中の二人がうる、…よく話すからお肉の焼く音も加勢して声が聞こえん。

「陽夏ちゃん、京平…怒ってない?」

耳元に近付いて隣に聞こえんように尋ねてみた。
そして、聞いたことを後悔する。

「大丈夫ですよ!だって明日から会えないんですよ…?本当はプリクラだって撮りたいんです!でも京ちゃんがダメだって言うから我慢してるんです。これくらいしたってバチ当たんないですよ!」

声を張らんと聞こえんと思ったんやろう。もしくはワザと。

そりゃあ大きな声で言うてくれて横目で睨まれるあたしは蛇に睨まれる蛙状態。
そんなこと気にせん陽夏ちゃんはどんどん焼けたお肉をあたしの皿にのせてくれる。

京平に軽く微笑んでみたものの舌打ちで無視された。

今日何回目の舌打ちやろう?
……これは確実に嫌われたに違いない。
それはそれで軽くへこむ。

一応ファンなわけでメンバーから嫌われるというのは個人的に、というよりも、ファン的に悲しい。
でも陽夏ちゃんが絡んでるならしょうがない。
小さく溜息吐いてお肉に手を伸ばしたとき、

「相手しなくていいから、ちゃんと食え」

まさかの京平から溜息混じりの言葉。
顔を向けると、また舌打ちされた。
隣の陽夏ちゃんは笑ってる。

「本当はすごく面倒見がいいんですよ」

と、こっそり教えてくれた。

あたしが思うに、京平は陽夏ちゃんが楽しそうに嬉しそうにするから、あたしと話さざるを得ない状態になったんやと思う。
京平は自分のことよりも陽夏ちゃん第一で、その笑顔で自分も嬉しくなる、みたいな感じ。

でもそれって羨ましい。
陽夏ちゃんは京平の事を考えてるし理解してる。
京平も陽夏ちゃんを第一に考えてる。

お互いを大切に思えるって素敵すぎる。
二人を見てたらあたしも高成とそういう関係になりたいな、と思った。
< 69 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop