クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



“夕夏” ……と。


名前を呼ばれたのは、気のせい?


「あ、あの……」


冷蔵庫のドアを閉めて葛城さんに向き直ると、彼は無言なまま紙袋を渡してきた。青いデザインのそれは、あの携帯ショップのもの。


頭の中が疑問符だらけのまま、どうしようか悩む。中身がわからない以上受け取ると後が怖い。


だけど葛城さんは後に引くつもりは無いようで、私の手を取ると強引に紙袋を持たせてきた。


ずっしり重い紙袋。中身はなんだろう? と開いてみれば、見覚えのある赤い色が見えて心臓が跳ねる。


まさか……と思いながら震える手でその赤い色のものに触れてみれば、ひんやりと硬い感触。手にしたものは予想より軽く、やっぱり手にしっくりと馴染んだ。


画面に触れてみれば、Welcomeの文字。 生まれてはじめてのスマホを手にできた。そのことは嬉しいけれど、なぜという疑問ばかりが膨らむ。


「……なぜこれを?」


私が葛城さんを見上げれば、彼は穏やかな瞳で私を見下ろした。


「おまえ、楽しそうに遊んでただろ。今まで何も欲しがらなかったのに、それだけは興味が違ったからだ」

「…………」


葛城さんの言葉は、はからずも彼が私をしっかりと見ていると言いたげで。ゆっくりと顔に熱が集まっていった。

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