クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「……実際小学生の時は学校すらまともに行けなかったせいか、人間関係を築く方法も世間の常識も未だによくわからない。
人並みのことを経験しなかったせいで、あらゆることに疎すぎる自覚はある。自分なりに勉強してそれらしく振る舞ってはいるが、本当はいつもいつも迷い悩む。これで良いのかと……臆病者で世間知らずの愚か者、それはオレの方だな」
フッと後ろから吐かれた息に、きっと今の彼は自虐的な笑みを作っているだろうということは想像に難くない。
冬瓜すら知らなかった葛城さん。男性にしては小食で、コンビニのものしか食べられなかった彼。
“葛城課長……あんまり家族に縁がない人だから……さ”
加藤さんに言われた言葉が頭を過った。
要らない子どもだと両親に疎まれ、誰とも一緒に暮らせなかったなんて。
それに比べれば、私はまだしあわせだった。お母さんと一緒に暮らせて思い出もある。
貧しくて寂しいこともあったけれど、お母さんと二人で笑いあいながら過ごした。 物質的に不足はあっても、心は満ち足りていた。
葛城さんは、“家族”を私以上に知らなかったんだ。
だから……
私は彼の膝から逃れると、湯船の中で膝を立てて彼の背中と頭に手を回して抱きしめた。
私より大きな身体を慰め、慈しむように。
「……大丈夫です、私だってお母さん以外の人とまともに暮らしたことはありません。だから、常識だとかはわからないですから。私の前ではありのままの姿でいてください。どんなあなたでも私は構いませんから」
ゆっくり、ゆっくりと。彼の頭を撫でながら語りかけた。