クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



その日の午後、一旦持ったと思われた富永先輩の体調がますます悪くなった。だからか、葛城課長が上司命令で早退をさせる。話を聞きつけたか、外回りから帰ってきた伊藤さんが彼女を送ることになった。


「先輩、大丈夫ですか?」

「ごめんね、加納ちゃん……」

「いいえ。仕事は大丈夫ですから、それより身体を労ってくださいね」

富永先輩は謝ってきたけど、好きで体調不良になる人はいない。仕事よりも、先輩の身体の方がよほど心配だった。


「伊藤、富永は年明けごろから体調が悪そうだった。休むだけで具合がよくならないならば病気の可能性がある。病院に連れて行ってやれ。一課の阿倍野課長には私から言っておくから今日は直帰しろ」

「……わかりました。課長にはよろしくお願いします。すみませんが、お先に失礼させていただきますね」


葛城課長の命令に、真面目な顔つきで伊藤さんが頷く。


どうやら富永先輩は一人暮らしらしく、実家はかなり離れた北陸地方らしい。だから、一番に頼れるのは彼である伊藤さん。すべてを把握し事情を察して、彼に任せる葛城課長はやっぱりすごいと思う。


しかも近くにいた私も気付かなかった先輩の体調不良をしっかり把握してたなんて。 これほどきめ細かな気遣いを出来る人なんてなかなかいない。


彼の大きな優しさに顔が熱くなって鼓動が速くなる。だけど、軽く首を振って俯いた。


(だめ……ドキドキしていい人じゃない。私はあくまでも仕事の部下。私情は忘れて仕事に集中しなきゃ。富永先輩の分まで頑張らなきゃいけないんだから)

< 156 / 280 >

この作品をシェア

pagetop