クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「加納」
ドキン、と心臓が跳ねる。葛城課長に仕事中に呼ばれたのは、年明けで初めてだった。
「は、はい」
「富永の早退で仕事の優先順位を変更する。こちらへ来い」
「わかりました」
仕事はともかく、日常生活では彼を避けて半月以上経つ。その間取り立てて何も言われてないから、ほっとしながらも寂しい気持ちもあった。
だからか、久しぶりに大好きな声で呼ばれて動揺してしまった。必死にそれを隠しながら、葛城課長のもとへ歩く。
クリスマス前、私と葛城課長はカフェテラスで待ち合わせた。ちょっとしたトラブルで注目を集めたから、噂になってないかとビクビクしたけど。どうやら皆は葛城課長と桜井のお嬢様の方に注目したらしく、取り立てて噂になってなくてほっとした。
私と葛城課長の態度が全く変わらないというのも理由のひとつかもしれないけど。
私と課長が釣り合わないと誰もが思っているんだな……と、寂しくも当たり前のことを思った。
「A興産のデータは後回しにしろ。それからB社の推移データは……」
葛城課長は口頭でテキパキと指示を出しながら、タブレット端末で優先順位を示す。そこで、一つおかしな表示を見つけて私は思わずそこを指差した。
「課長、あの……この納品データですが、日付が……」
それを口にした瞬間、だった。
スッと課長の手が出てきたと思ったら、大きな手のひらが私の手とそっと重なったのは。
「………!」
一瞬、強張った私に向けて葛城課長は穏やかな声で告げる。
「ああ、これはチェックミスだったな。加納、礼を言う」
「い、いえ……」
手のひらはとっくに離されたけど。
彼のぬくもり以上の熱が肌に残った気がして、無意識に触れられた場所を握りしめた。