クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「加納ちゃん、こっちこっち~」
加藤さんはこちらへ向けて陽気に手を振る。小走りで彼のもとへ着くと、「そんなに急がなくて良いのに~」とおしぼりを渡してくれた。
ここは、会社から少し離れた沿線の駅前にある居酒屋。知ってる人に見られると恥ずかしいから、加藤さんのチョイスはありがたかった。
まだこういう席は慣れない私は、ぎこちなく加藤さんの真似をする。まずは突き出しのめかぶの和え物が出てきて、加藤さんはこれ美味いんだよな~と舌包みを打つ。
「で」
ビールでなく日本酒をお猪口で一杯やった後、加藤さんは私を見据えた。
「訊きたいこと、あるんだよね? 葛城課長のこと」
「!」
まだ突き出しをもそもそ食べていた私は、驚きのあまりに箸を落としかけた。
「そんなに驚くこと? 君、葛城課長とあれだけよそよそしくなっておいて、何もわからないとでも? バカにしてもらったら困るよ」
珍しく、加藤さんは気色ばんで二杯目のお猪口を空ける。眉を寄せてるから、怒ってると解ってなんだか怖くなった。
「ご、ごめんなさい……」
膝に両手を置いて俯く。体が震えてくるのは、やっぱり男性が不機嫌になるのが苦手だから。
高校を卒業して前の職場でクビになるまで、私の周りにいた男性は不機嫌になると私に何らかのペナルティを与えた。それが意地悪だったり性的な何かだったり。運が悪いと暴力が伴うこともあって。ビクビクしながら顔色を窺い暮らすのが当たり前だった。