クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



「そんなに怯えなくていいよ、ぼくは君に何もしないから」


厳しかった表情を緩めた加藤さんは苦笑いをする。半個室の座敷だからか、彼は足を崩して首もとのネクタイを緩めた。


「やっぱり、加納ちゃんは男が苦手でしょ?」

「……は、はい」


隠すことも無いと思い、素直に頷いた。


「下世話な話だけど、その分だと男との付き合いは無かったわけね」

「………」


そこまで話す必要があるのかわからないけれど、答える代わりに俯いて手元を見た。それを肯定と取ったか加藤さんは続ける。


「ぼくのこのネクタイを緩める仕草さ、女性ならキュンってくるポイントらしいけど。加納ちゃんは全ッ然興味なさげだし。これが課長なら違うんだろうね」

「……」


思わず想像してしまって、ボッと火が点きそうなほど顔が熱くなる。それを見た加藤さんは、苦笑いを深めた。


「わかった、わかった。加納ちゃんの想いは十分わかったから」


パタパタと寛げた胸元をはためかせながら、彼は「それで何が訊きたいの?」と言うから、思い切って口に出した。


「あの……葛城さんとはどんな知り合いなんですか?」

「ああ、大学の先輩後輩だよ。三辺さんも同じ大学で、きっかけはサークルだったかな。映画研究会」

「映画研究会?」

「名前だけの、実質出会い目的の遊びサークルだったけど。だけど、葛城課長だけは真面目に活動してたな」


葛城さんが大学でも映画にこだわったのは、幼い頃見た楽しかった映画の思い出が忘れられなかったんだ。なんとなくそう感じて切なくなった。



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