クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~




いきなり私が話を切り出すのも失礼にあたる。だから、曾おばあさまがさりげなく話題を変えてくださった。


「夕夏は今SS商事で働いてまして、結花の後輩にもあたるのですわ」

「……まぁ、SS商事で」


その名前を聞いた途端、弥生さんの態度がわずかに和らいだ。SS商事といえば国内でも一二を争う総合商社。一流企業勤務というステータスが加わったからか、私を見る目が変わったのかもしれない。


あまりのわかりやすさに内心で苦笑いしながらも、私はここでと付け加えるために口を開く。


ぎゅっ、と重ねた手の下で拳を握りしめて一呼吸置いて……勇気を振り絞る。


「はい。SS商事では葛城智基課長のいらっしゃる営業事務で働かせていただいてます」


その名前を出した途端、葛城側の方々の表情が変わった。


隼人さんは舌打ちしそうな苦々しげな顔に。弥生さんは笑顔のままだけれど、どこかひんやりするものを含んで。そして、勇人さんは……明らかに動揺を浮かべたけれど。すぐに冷静な元の顔に戻す。


「まあ、智基の……では、結花さんもご一緒に働かれていらしてたのね」


さりげなく弥生さんが話題を逸らそうとする。息子について話したくないと言わんばかりの態度に、少しだけ頭に血が昇った。


すぐに、問いただしたい。なぜそんなに息子さんのことを避けるのか、と。


でも、そんな身勝手は許されない。今私は三辺さんの結婚のための挨拶に来てる。ここでわがままを通すと、三辺さんばかりか曾おばあさまの顔を潰すことになる。ひとまずぐっとガマンした。


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