クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
近くにはシークレットサービスらしき人がいるものの、メイドさんや執事さんもついて来ない。つまり勇人さんと二人きりというありがたい状況になれた。
「きちんとマフラーと手袋もなさってください。女性が体を冷やしてはいけない」
勇人さんはマフラーどころか、帽子や手袋まで身につけさせて下さる。これほど気遣いできる人なら、さぞモテるんだろうな……とぼんやり思った。
「今は吉備、菊冬至などが見頃でしてな。ですが一番はやはりこの品種でしょうか」
勇人さんの案内で庭を歩く。ヨーロピアンガーデンの隣にある日本庭園では、池のそばにある椿は紅色だけでなく、白やピンク色なんかもあって興味深く眺める。
そして、しばらく歩いた先に――ポツンと建てられた平屋建ての日本家屋。洋風の中にあって異彩を放つそれの前に来た勇人さんは、足を止めてぽつりとこぼした。
「……ここが、智基が育った離れです」
「え……」
突然、こんな場所に連れてこられた意図が解らずに目を瞬いていると。勇人さんは躊躇いを見せながら切り出してきた。
「……あなたが智基と暮らしていることを知ってます。それから智基がとても人間らしくなってきたことも……」
「……」
「申し訳ないが、あなたのことも調べたのです。あなたは……千夏の娘だと言うことも」
「!」
既にすべてを知られていた、と息を飲む私に、勇人さんが向けてきたのは深い悔恨の情を含む眼差しだった。