クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「夕夏」
いきなり名前を呼ばれて、もう一度肩が跳ねる。顔を上げたいけれど、先ほどの失敗と待ち合わせというシチュエーションに、恥ずかしさが募ってとてもできない。
ふわり、と鼻腔をくすぐったのはミントの爽やかな香り。そして、自分の手に温かさを感じて弾けるように顔を上げた。
すると、そこにあったのは私を見つめる葛城さんの顔だけど。彼は、信じられないことに私に微笑んでくれていた。
「よく、似合うな」
「……え」
何を言われたのかわからなくて目を瞬いていると、突然指先で私の唇に触れた。
「……服もいい。だが……一番綺麗なのはおまえだな」
「……」
何を言われたのか理解できなくて、頭が真っ白になる。体もフリーズして、動くまでに数分間時間がかかった。
……一体、葛城さんは何を言っているの?
今の今まで生きてきて、可愛いだとか綺麗だとか。本気で言われたことがない私からすれば、穏やかながらも真摯な眼差しで告げられた言葉に。彼が冗談でもそう言わないことがわかっているからこそ、本気で受けとめるにはあまりにも……自分にふさわしい言葉じゃなくて。
だから、ハッと我に返った後は慌ててフォローしなきゃと焦った。
「あ、そうですね……あの女性はセンスいいですし、モデル並みの美女ですもんね」
すぐ近い場所で恋人と待ち合わせしてただろう美女を見ながら言えば、頬に手をやられて強引に視線を戻された。
「……あんな女より、おれはおまえの方がいい」