クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~




葛城さんの車に乗るのは何度目かなのに、今日はいつにも増して落ち着かない。ドキドキと心臓が高鳴って、そわそわとした気分になる。


「ほら」

「……あ」


手のひらに温かさを感じれば、日本茶のペットボトルがそのなかに収まってた。


「体がずいぶん冷えただろ。それでも飲んで落ち着け」

「あ、ありがとうございます」


素直にお礼を言ってふたを開けば、馴染んだ緑茶の香りが広がる。ひとくちだけ飲み込めば、じんわりとした温かさがゆっくり体に広がって。少しだけ冷えていたんだ、と今さらながら気付いた。


私が普段コーヒーや紅茶でなく日本茶を飲んでると、知ってくれている。そんなささやかな嬉しさと彼の優しい気遣いに、しあわせを感じて仕方ない。


「夕夏」

「はい」

「先ほど言った通りに、今日はおまえのわがままに付き合う。その代わり夜はおれに任せてもらうが……」


夜は? 言葉を濁す彼に首を傾げるけれど、私ははいと頷いた。 葛城さんをがっかりさせないと決めたばかりなのだから。


「夕夏、おまえはどこに……いや、何がしたい? 思うままに言ってみろ。欲しいものでもいい。おれが叶えられるものなら努力しよう」


葛城さんのそんな促しに、思わず本音が口を突きそうになる。


“あなたのそばにいたい”――なんて。身の程知らずでわがままな願いが。


だけど……


どう考えたって、私では彼に相応しくない。身分や血筋とかではなく……彼に相応しいのはもっと有能で美しいひと。


だけど……私も。


私だって、欲しいものがある。


数度瞬きを繰り返した私は、とんでもないわがままを言葉にするために、深呼吸を繰り返し躊躇いながら口を開いた。


< 210 / 280 >

この作品をシェア

pagetop