クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「わぁ……すごい!こんなに首が長いなんて……あ」
初めて間近に観る動物の大きさに思わず感嘆の声を上げてから、慌てて口をつぐんだ後にちらっと隣を見た。
二十歳にもなる大人なのに、社会人なのに。動物園で興奮のあまりはしゃいでしまうなんて……子どもでもあるまいし、恥ずかしすぎる。
だけど、そんな私に彼は……葛城さんは、呆れた様子を見せない。どころか、むしろ口元が緩んでる?
メガネの奥にあるいつもは冷静で理知的な瞳も、普段より優しく見えて。頬が熱く感じた私は慌てて目を逸らし、目の前にいるアミメキリンに意識を集中しようとした。
「知ってるか? キリンは首の骨の数は人間と同じ七つだそうだ」
「え、あんなに長いのに……ですか?」
「そうだ……とはいえ、おれも絵本で知った程度の知識に過ぎないが」
ふ、と葛城さんが笑みを作る……でも。それはとても寂しそうなもので。私の胸が痛んだ。
言葉には出していないけれど、葛城さんは私と同じ。子ども時代にお出かけをした記憶がない。
暗く重くなりそうな気持ちにブレーキをかけるために、私は見つけていた違う場所を指さした。
「葛城さん、ほら! あちらにニホンジカがいますよ。ご飯があげられるみたいですから、早くいきましょう」
「お、おい……」
葛城さんの困惑顔には構わず、彼の腕を取って軽く引くだけで歩き出してくれた。やがて、仕方ないと言うような苦笑いを浮かべてほっとする。
今日くらいは、わがまま振る舞おうと決めた。彼に暗い気持ちになって欲しくないから、こうして勝手にふるまって……だけど、後悔したりしない。
彼には、いつだって笑ってて欲しいから。