クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
ニホンジカには一皿100円で買った餌をあげることができる。他にも象や水鳥に猿なんかも。
幼い子どもに混じって大人だけで餌やりは少しだけ恥ずかしいけど、今は童心に返って……なんて言い訳をしながら、鹿せんべいを手に柵の前にしゃがむ。
けど、遠くから見れば可愛らしい鹿も……ぬっと顔を近づけられれば。その大きさに驚いて、思わず後ずさった。
柵の間から物欲しそうに鼻を突き出してるけど……口の中にびっしり生えた歯が怖い。下手すると噛まれそう……なんて情けなくも震える私の手に、そっと大きな手が添えられる。
「怖くなんかない。ほら」
すぐ背中に葛城さんのぬくもりを感じて、ばくばくと早まった鼓動が落ち着く。肩を抱かれて気持ちに余裕ができたからか、ようやく鹿せんべいを差し出すことができた。
「もう少し……ほら、今だ」
葛城さんの合図通りに餌を離した瞬間、ぱくんと鹿がせんべいをくわえた。そのままポリポリとかじられ、あっという間にお腹の中へ。
「よし、よくやったな。夕夏」
ポンポン、と軽く頭を叩かれて、緊張感が抜けていく。ほっと息を吐いた私から、葛城さんはお皿を奪った。
「次はおれの番だな。うまくやるから見ておけ」
「はい」
やけに張り切った葛城さんは、何の躊躇いもなく鹿せんべいを勢いよく差し出した。
「ほら、食べろ」
ぱくん、とベストタイミングで鹿がせんべいをくわえて、振り向いた彼はどこか得意そう。
“やったあ!”と喜ぶ男の子みたいで。可愛く思えた私は、彼に自然と笑顔を向けてた。
「すごいです。葛城さんは得意なんですね」
「まぁな」
ただ、次は得意げでよく見てなかったせいか……鹿に指を噛まれてましたけど。