クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
背中に感じたのは力強い腕で、顔に感じたのは硬い感触。
ぬくもりともはや慣れたミントの香りに、自分がどうなったのかをゆっくり理解して、頬に熱が集まった。
「泣きたいなら、泣け。無理に自分の感情を抑えるな……夕夏、おれはもっとおまえが見たい。自分をごまかすな」
「……葛城さん」
「おれも、おまえにありのままの自分を知って欲しい。だから、おまえも偽らずにいろ」
ぎゅっ、と息苦しいほどに葛城さんに抱きしめられて。涙なんてとっくに引っ込んでいってしまってた。
そして、彼が教えてくれた想い……。
私を、知りたいと。素のままの私を理解したいと言ってくれた。
そんなふうに、今まで私を見てくれるひとはいなかった。 ただの使用人とか女性という性別で判断して、加納 夕夏という一人の人間として理解する努力をしてくれたひとは。
私は、ただ仕事の部下であなたのペットなだけなのに……。
「……どうして」
「夕夏?」
「……どうして、そこまで優しいんですか……あなたは……」
ついつい、恨み言が口を突いて出た。
「私は……あなたが好きだと……言ってしまって……叶わないのはわかってるのに。なぜ、そんなにも優しくしてくれるんですか!?
余計に忘れられないじゃないですか……」
ぽろり、と一粒だけ流れると、堰を切ったように涙があふれた。
「よけいに辛くなるのはわかっているのに……酷い、ですよ……」
あの時告げてしまった気持ち。彼が何もなかったように振る舞うから、私も忘れようとしていたのに。
なぜ、葛城さんは私の気持ちを掻き乱すようなことをするのか、という思いでいっぱいだった。