クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「……もう、は、離してください……」
彼から逃れようともがくけれども、葛城さんの腕にはますます力が籠ったように感じた。
がっちりと抱きしめられれば、逃げられるはずもなくて。私は懸命に言葉を紡ぐ。
「お願いです! 虚しい期待なんてしたくない……私がこれ以上ばかなことを言ってしまう前に……離してください」
流れる涙が止まらないままに、必死に彼に懇願した。叶わない夢を見てしまわない為に。自分の身の程を知らず、彼のそばに居られるなんて愚かな夢を。
だけど、葛城さんはどんなに言葉を尽くしても私を解放してくれることはなくて。もう疲れた私が項垂れたころ、ボソッと耳元で呟いた。
「……映画」
「……え?」
映画? 今の状況に似つかわしくない単語に、彼の意図がわからなくて?マークが頭を埋めつくす。そんな私に言い聞かせるように、葛城さんは言葉を継ぎ足した。
「来週はシネコンへ映画を観に行く。観たいタイトルを決めておけ」
「……シネコンに?」
え、なぜ来週の予定? 観たい映画があるのかと考えたけれども、私の観たいタイトルと聞いて更に混乱する。
なぜ、葛城さんは映画を観に行くとわざわざ私に教えるの?
(もしかして……恋人にしたい人がいて、女性向けの映画を知りたいってことかな。その人のデートの為に)
そこまで考えて、ようやく納得できた。葛城さんが私と映画に行く必要は欠片も無いし、きっと好きな人とデートして距離を縮めるため……。
(なら、一生懸命考えなきゃ。葛城さんならよほど大丈夫だろうけど、彼が決めたひとならきっとしあわせになれるはずだもの……)
彼のしあわせのために、できることはしようと頷いた。声の震えを悟られないよう気をつけながら。
「はい、わかりました。きちんと調べて決めておきますから安心して任せてくださいね」