クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「やっぱり我が家が一番だな……」
ほっとしたように葛城さんが息を吐いたのは、アパートに帰ってから。佐藤さんご夫婦からチョコを引き取って、リビングで休憩中。ならお茶でも、と私はキッチンに向かった。
「今日はお疲れさまでした。お茶でもいかがですか?」
「いや、今日はおれが淹れよう。夕夏は座ってろ」
葛城さんに肩を掴まれてストン、と椅子に座らされた。
「え、でも淹れ方はわかりますか?」
「これでも長い間独り暮らししてたんだ。本当はいろいろと出来るぞ」
手慣れた様子でケトルに火にかけると、茶器も出して準備をする。
「新人の頃は誰でも会議のお茶だし係をさせられたからな。最初に温いだの、薄いだの文句を言われて、悔しくてかなり練習したんだ」
「え、葛城課長が……ですか?」
信じられなくて目を丸くしてしまう。今では押しも押されぬ課長の地位にある人が、淹れたお茶にダメ出しされてたなんて……。
「そうだ。うちの会社は性別で役割を変えたりしないからな。トイレ掃除とかも当たり前にさせられた。業者任せばかりにせず、他の役割を担う人間の苦労も知れ、と。
まぁ……さすがにそれは数年前におれが廃止させたが」
話してるうちに香ばしい薫りが広がり、トレイを持った葛城さんが私の前に湯飲みを置いた。
「ありがとうございます。いただきます」
お礼を言ってからゆっくりと口をつけた玉露は、とても香ばしくて美味しかった。