クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
営業事務課のフロアを出る時、チラッと彼の姿を見遣る。フロアには既に他の人影はなく、私と課長が最後だった。
お昼休みはあと20分も無い。それなのに葛城課長はお昼ご飯を食べる様子もなく、黙々と仕事をこなしてた。
“課長はお昼を食べていらっしゃるんですか?”
言えなかった言葉を口の中だけで呟いて、ため息とともに誰も居ない廊下に放り投げた。
(ダメだよね……ペットがそんなふうに心配したって。きっと葛城さんには迷惑なだけ)
ペット……。
自分の今の立場を思い出して少しだけ気分が落ち込み、彼と会った日の夜の出来事を思い返した。
葛城さんに“おまえをペットとして飼ってやる”と言われて10日経つ。
あの時最初は何を言われたのかわからなくて、何をするかと訊いたら“好きに生きればいい”と告げられた。
ますます意味がわからなくて、心底困り果てた私は。
「なにかお手伝いを……出来ることはなんでもさせてください」と申し出てみた。
大した学歴も資格も特技も無い私だけど、力はあるし根性は負けないつもりだった。
なのに
「必要ない。すべて間に合っている」
とキッパリハッキリと断られてしまった。
だけど、仔犬と違って私は人間。ただ無条件で置いていただくなんてとんでもないし、したくない。それだけはどうしても譲れずにいた。