クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



葛城さんのお部屋は二階にある。

二階建てのメゾネットアパートの間取りは3LDKあって、独り暮らしのわりには広いと感じた。


三辺さんとのことを知る前にも、もしかしたら将来家族を持つために住んでいるのかな? なんて想像をして、お金を貯めたら早く出て行こうと決意をしていた。


他の同僚からの情報になるけれど、今32という若さで課長という地位にあるなら、結婚相手として引く手あまたのはず。無愛想だけど冷たくはないし、仔犬のついでに私を拾ったように情も深い。仕事もやり手でしかもかなりの美形。モテないはずない……という予感は、時折彼に注がれる熱い視線や噂話でしっかり当たってた。


“葛城課長、ほんとストイックでクールよね”

“今までどんな美女の誘いも断ってきたもの。ああいう人って手強いけど、そのぶん一途に大切にしてくれそうじゃない?”

“そう、そう! 浮気の心配なさそう~”

“あの鉄壁の仏頂面が恋人にどれだけ甘い顔をするか見てみたい~!”

“ギャップ萌えよね~あの無表情が甘い笑顔で愛を囁く……って。ぜったいそれだけで落ちそう”


表向き、女子社員さんたちは目立つ華やかな男性社員に目を向けて近づけば親しげにきゃあきゃあ騒ぐけど――葛城課長に対しては絶対にそんな態度は取らない。


けれど、逆にそのぶん深い部分で好意を抱かれている。本気に近い思慕の感情で。


「…………」


どうしてか階段を上がる途中で胸がチクリと痛み、そこを押さえて息を吐いた。


視線を上げて階段の先をみれば、趣味のいいデザインの釣りランプと天井。人感センサーで灯りが点くから、今のそこは薄暗い。


――まるで、先が見えない私の未来みたいだ。


ほんの少しだけ自虐的に笑った私は、軽く頬を叩いて手すりを掴みゆっくりと先を目指した。

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