クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
カギは開けておく、と告げられた通りに、葛城さんの部屋のドアはあっさり開いた。
「……お邪魔します」
念のためドアノックはしたけれど、反応が無くて躊躇いがちにドアノブに手を掛ける。先に部屋で待ってろと言われたからには、中に入る必要がある。
一緒に暮らし始めて半月近く経つけど、当然彼の部屋に足を踏み入れるのは初めて。私の借りている部屋は一階だから、意識しなければほぼかち合うこともない。
ドキドキとしながら深呼吸を数度。ドアノブを捻りゆっくりと開くと、センサーライトが反応してゆっくりと明るくなる。そして、室内を初めて見て驚いた。
天井に届きそうなほど背の高い書架が幾つもある。深いブラウンの落ち着いたシックな造りは、他の家具や調度品にも共通で。どっしりした机にはノートパソコンやタブレット端末。後は見たこともない品物が置かれていた。
十畳よりやや広い部屋は窓が北側にあって、今はブラインドが下げられてる。基本はフローリングの床にクローゼットという造り。左手にシングルベッドが配置されていて、几帳面な彼らしく周りは綺麗に整理されていた。
でも、それより気になったのは圧倒的な蔵書の数々。何百冊あるのかわからない豊富さに、思わず目が釘付けになった。
(……すごい……)
私は本を読むのが好きだった。幼い時に古本屋で買って貰った絵本を皮切りに、小学校から高校まで。学校の図書室によく入り浸ってたりもした。
休日も近隣の図書館に通っては制限ギリギリまで本を借りて、時が経つのを忘れて読み耽ってた。
趣味やお洒落にお金をかけられない私は、散歩や読書や勉強くらいしかすることが無かった。中学まで養って貰った家では家事や家業を手伝っていたから、あまり時間は無かったけれど。息抜きによく読書をしては違う世界へ思いを馳せてた。