クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
彼の口にくわえられた指が、音を立てて吸われて。膝から力が抜けそうになった。
「か……葛城さん」
何が起きたのかまったく理解できないまま、呼んだ声には不安が滲んでいたのかもしれない。
「あの……本当に……わ、私と?」
いいんですか?と無言で問いかける。さっき宣言されたにもかかわらず、本当に私を今から抱こうとするんですか?と信じられない気持ちでいたのに。
それに対する答えは、ひどくあっさりしたものだった。
「おまえ、だからだ」
「でも……」
やっぱりわからない。葛城さんが何を考えているかなんて。
男性が苦手な私には何もかもが未知過ぎて、どうしても怖さが拭えない。すべてを委ねると決めたのに情けないけれど、今まで触れられたことはあっても暴力的な行為しか経験がないから、彼の様に優しく扱われることにも正直戸惑いがあった。
ほんの微かに過去を思い出して、体に震えが走る。それを認めたのか、葛城さんは私を片手で抱きしめて背中をポンポンと叩いてくれた。
“大丈夫だ”
彼が、そう言ってくれた様に感じて。自然に涙があふれて視界が滲む。
人としても男性としても一回り先輩の彼は、おそらく私の事情を薄々察しているのだと思う。けれど、敢えて口にせず無言で慰め励ましてくれてるんだ。
普段仕事中は厳しいけれど、私生活では十分以上私に優しい。
ゆっくりと背中を撫でる手は、私にひどいことをしない……私は、そう信じることができた。