クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



「落ち着きましたか?」

「……ええ。ありがとう」


リビングのソファで震える手でそっと湯飲みを抱えた女性は、パッと見年齢は70を越えていると思う。白髪をゆったりと結い上げ、紺色のワンピースに同色のストールを纏ってる。


肌は張りを失ってシワだらけで、落ち窪んだ奥の瞳は白く濁ってる。でも、きちんとお化粧もしてるし。髪留めはたぶんその辺りの安物に見えない。古ぼけたデザインだけど、服の生地や仕立ても悪くない。暮らし向きは悪くなさそうだけれど、なぜあんなにも人家から離れた河川敷で倒れていたんだろう?


最初は家に入れるのを躊躇った。私は居候に過ぎないのに、家主の許可なく勝手に見知らぬ人を入れていいかと。


でも、おばあさんは真っ青な顔でどう見ても具合が悪そうだった。ふらついてたし、このまま一人放っておくなんてできなかったし、第一救急車を呼ぶほどの容態ではなさそうで。やむなくメゾネットアパートの中に通した。


「すみません……お忙しいでしょうにお手を煩わせてしまって……」

「いえ、困ってる時はお互い様ですから」


軽く頭を下げてくるおばあさんは、何だか動きが綺麗だと感じた。


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