クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「もうしばらく休まれて、気分が良くなったら誰かにお迎えにきていただきましょうか?」
ずれた膝掛けを直しながら話しかけてみれば、なぜか一瞬女性の表情が強張った。だけど、次には唇の端を上げてにっこりと笑う。
「……いえ、お気になさらずに。きちんと自分で帰れますから、もう少しだけこちらで休んでもいいですか?」
「あ、はい。それは構いませんけど……」
「よかったわ。わたし、最近は目眩がひどくて……年を重ねると悪いことばかり増えて、何だか嫌になるわ」
フフ、と笑う女性のその笑いかたに。何だかひどく懐かしいような、それでいて既視感を覚えた。
「美味しい……お若いのにお茶を淹れるのにずいぶん手慣れてらっしゃるのね」
「あ、はい。会社でよく淹れますし、家でもよく飲みますので」
私がそう話すと、女性の顔がパッと輝く。
「まぁ! やっぱり。ご結婚されてらっしゃるのね……あなたのような素敵な奥様がいらっしゃる旦那様はきっとお幸せね」
結婚、なんて。私には最も縁遠い言葉に、曖昧に笑うしかない。
「さぁ、どうでしょうか……お代わりはいかがですか?」
「ありがとう。でももう十分ですわ」
丁寧に湯飲みを置いた女性は、ホウッとため息を着いた。
「そういえば、まだ名前を名乗っていませんでしたわね。わたくしは如月風花(きさらぎ·ふうか)と申しますの」
「私は、加納 夕夏です」
私が名乗った途端、なぜか女性の顔から笑みが消え呟いた。
「……加納……?」