クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「あの、どうかしました?」
こちらをじっと見詰めてくるから何だか落ち着かなくて、遠慮がちに訊ねてみれば、如月さんは我に返ったようで急いで目を伏せた。
「驚かせてごめんなさいね。ちょっと知り合いと同じ名字だったものだから」
「……そうだったんですか」
如月さんは両手を膝の上に置くと、小さく息を吐き出した。
「上の娘が嫁いで行った家と同じ姓なの。わたしには娘が二人いてね、下の娘が生んだ孫娘がもうすぐ結婚するの」
「そうですか。おめでとうございます」
なぜ、そんな話を見ず知らずの他人である私にするんだろう? なんて疑問を感じながらも、追い返すなんてできなくて。彼女の話をじっと聞いてた。
「いいわね、加納さんはお幸せそうで。孫娘もあなたの様にしあわせになってくれるといいのだけど」
困ったような、怒ったような。何とも言えない奇妙な表情で如月さんは呟く。
「だいたい、順番を間違えてはしあわせになれないとわたしは思うの。子どもが先では後々後悔するかもしれないのにね。ね、あなたもそう思わない?」
何か腹に据えかねることがあるのか、如月さんはだんだんとヒートアップしていった。なぜか女性としての心構えまで教えて下さり、最終的にとても為になるお話が聞けたけれど。
どうも、できちゃった結婚に対してあまり賛成してない様子。やっぱり昔気質の方にはショックなんだろうな……。
(でも、どう見たら私がしあわせとか思えるんだろう?)
如月さんが出ていったドアを見つめながら、ため息をついて踵を返した。