漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
(私は『聖乙女』。この国の平和と安寧を守る者。その誇りと国や民を愛する気持ちは誰にも汚されず、清らかであり続ける。その誓いに嘘はない。
だから神よ、願いを聞いて。
どうか晴空を、私に許しをお与えください…!)


ゴロゴロ…!


答えるように曇天に轟音が鳴った。


かと思うと、ザァアアと大雨が降るような音がした―――いやちがう。地上を打つようなこの音は、水ではありえない。


「きゃ…っ」


突如アンバーの足元に拳大の白い塊が落ちて砕け散った。運が悪ければ、アンバーの頭を砕いていたかもしれないそれは氷塊だった。
目を見張るような大粒の雹だ。


(春に入った今時期に雹…!?)


動揺している場合ではなかった。
外から悲鳴と騒然とした音が聞こえてきた。
広場に詰め集まっていた人々が逃げ惑う惨状がアンバーの視界に映る。怪我を負ってふらつく老人。それを突き飛ばし、安全な逃げ場を奪い合って殴り合う男たち。血の中で横たわる母親のそばで泣きじゃくる幼子…。
アンバーは戦慄し、打ちのめされるように膝をついて頭を垂れた。
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