漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「あ、ありがとう、ファシアス」

「まったく…いつも後先考えないで行動するんですから。なにしてたんすか?『聖乙女』様が木登りなんて」

「雛鳥が落ちて弱っていたから元気づけて巣に戻してあげてたの。ほら、あの枝の付け根に巣があるのよ」


と指差して見せるが、ファシアスはチラっと視線をやっただけで、そのあとアンバーを上から下へ見下ろした。
きょとんとして数瞬後、アンバーははっとなった。
腿上まで素足が剥き出しになり、肩から衣服がずり落ちて胸元が露わになっている…。あわてて衣服を直した。『聖乙女』があるまじき格好だ。


「…それ、今日の正装ですよね。いいんすか、んなシワシワにして」

「だ、だめだけど…仕方ないじゃない、早く戻してあげたかったんだもの」

「はぁー。ちっとは『聖乙女』の自覚っての意識してくださいよ」


ファシアスはわざとらしいくらいに大きく溜息をついてみせた。
アンバーは唇をすぼめて「そういうファシアスこそどうなのよ」と幼馴染をにらんだ―――が、いつもよりも視線が上に行くことに気づく。
背が大きくなっていた。
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