漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
禊のために宮に籠って会えなかった期間はほんの数ヶ月のはずなのに、目に見えて伸びたのが分かる。身体全体も大きくなって、ますます武人としての箔がついたようだ。
余裕のある笑みを浮かべるファシアスから、アンバーは思わず視線を外した。胸がざわついてドキドキした。何故そうなるかわからなかったけれど…最近、ファシアスを見るとこうしておかしくなる時があった。


「な、なんだか少し見ない間にまた大きくなったわね」

「ははそーだろ? こっちはますますあんたがチビに見えてきますよ」


と、ファシアスは腰に手を当てアンバーを見下ろす。
アンバーはムッとなったが、からかうその態度さえ武人らしい迫力があって少し圧倒された。


イロアス家はファシアスの兄が継ぐことが決まっていたが、ファシアスもまた武人として成果を上げ着実に地位を固めていた。戦闘能力だけなら兄を抜いていると、その名声は宮から出ることを許されないアンバーの耳にも届いていた。

ファシアスの雰囲気に思わず圧倒されてしまったのがくやしくて、アンバーは憎まれ口を叩いた。


「そう。そうまで言うなら、今回の任務地もさぞ過酷な場所だったんでしょうね」

「そうだな。過酷だったな。国境の警備は」

「…国境?」


思わぬ返答にアンバーは息をのんだ。
国境は、今や一番の危険地域だったからだ。
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