漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
影が伸びてきて、アンバーの喉をわしづかみした。


「ぐぁ、ああ…」


アンバーは意識を集中させた。手に光を結束させるが…シュウ、と黒い影にまたも握りつぶされてしまった。
…聖なる光が暗黒に負けてしまうとは…。


「神は私に貴女を罰する権利を委託したのです。私が魔力を手に入れたことがそのなによりの証!そう、私のこの力は貴女を罰するために与えられたのだ。貴女は神に見放された」


雷が鳴る。
雹雨が激しく降りそそぐ。
辺りはいっそう暗くなり、アンバーは刑罰を宣告された罪人のごとく呆然となった。


(私は、神に見放された…。これは神からの罰…。ファシアスを受け入れた罰…)


もはや人形のようになったアンバーは、エルミドが再び覆いかぶさってきても微動だにすらしなかった。
むしろエルミドの姿すら見えていないようだった。ただ空を見つめる瞳は絶望の暗闇に覆われていた。

唇が塞がれる。

初めての口付けの感触は、生温い肉塊を押し付けられたように不快なものだった。


「やった…ついにやったぞ!『聖乙女』の貞潔を奪ってやった…!」


エルミドは狂気じみた歓喜に震えた。
『聖乙女』の唇は癒しの吐息を与える。その唇が外界の者に触れられたということは、言うなれば泉の源泉が毒に汚れたに等しい。
そして、穢れた源泉を持つ身は、もはや『聖乙女』たる身とは言えない。
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