漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「『聖乙女』を俺のものにしてやったぞ!いや、もうおまえはただの女だ、アンバー。おまえは今日から俺の女だ」


狂ったように笑い、その歪んだ顔のままエルミドはアンバーの首筋にねっとりと舌を這わせた。

もはやアンバーはなにも感じなかった。肌を走る感覚は、その下に感じる痛み―――押し潰されたような胸の痛みと比べれば、ちっぽけなものだった。

神から見放されたという絶望。
『聖乙女』たる清らかさを失った空虚感。
…そして。


(ファシアス…)


こんな時であっても、思い浮かぶのはファシアスだった。


(私はもう、ファシアスに守ってもらえるような存在ではない…)


国を守る武人であるファシアスが、『聖乙女』ではなくなった自分を守る道理などどこにもない。
ファシアスとの絆はついえてしまった。
そのことがなによりも辛かった。アンバーの心を悲しみと寂しさが押し潰して粉砕した。


(ファシアス…。だって私は、おまえなしでは…)
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