漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
あまりに愚弄するような言いようにエルミドは激昂した。
しかしファシアスは動じない。その内に静かに燃えている怒りの方がエルミドのそれよりも何倍も激しかった。愛しい女が汚らわしい愚者に組み敷かれていた―――その状況が想像させる忌まわしい事態を思うと、煮えたぎる怒りを胸に留められているのが奇跡と言えた。


「あんたが王太子だろうがなんだろうが俺には関係ない。俺が守るのは国と民とこの女だ…!」


部屋の中には城内に散らばっていた近衛兵が異変に気づいて入り込んできていた。みな、有能と名高いファシアスが『聖乙女』を抱き王太子に剣を向ける異様な光景を目にするなり困惑する。
エルミドをは勝ち誇った冷笑を浮かべて、近衛兵たちに告げた。


「今の言葉を聞いたか。大胆にも謀反の宣言がなされた。たった今からこの元『聖乙女』と元将軍は私の敵となった。早くこの謀反人どもを捕えろ!!」


状況が飲み込めずとも、近衛兵たちにとってはエルミドの存在と言葉が唯一無二だ。戸惑いつつも、剣を抜きファシアスたちを取り囲む。
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