漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「ファシアス…逃げて…。いくらおまえでもこの数では…!」


さすがに狭い部屋内で多勢を相手にするのは難しいだろう。
しかしファシアスはアンバーをさらに強く抱きくるむ。決して離さないという意志がこもったその強さに、アンバーは胸が激しく高鳴るのを感じた。


「…ついにこの日が来るとはな」


ファシアスはどこか楽しげに口元をゆがめると、剣をしまい、アンバーを軽々と抱きかかえた。


「きゃ…っ…待って…ファシアス…!」

「しっかり掴まってろよ」


そう囁いて視線をちらとやったのは窓だ。
ファシアスは急に駆け出し、窓の近くに立っていた近衛兵二人に体当たりし蹴り上げ、窓に直進した。


「待て!捕えろ!!」


ファシアスの思惑に気付きエルミドが叫ぶ。このままではアンバーごと逃がしてしまう。
咄嗟の行動に虚を突かれた近衛兵たちが、すでに窓枠に片足をかけているファシアスを捕えるのは不可能に近かった。


(不届き者どもめ。この俺に逆らうか)


エルミドは魔力を高めた。
このままおめおめと逃がすことはエルミドのプライドが許さなかった。
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