漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
清浄な宮に籠って清らかな身であり続けることで神の御力を借り、ただひたすらに国の平和を祈るのが使命。言い替えればそれ以外のことに心を囚われてはいけないのだ。たとえ民を大惨事に貶める危険がくすぶっていても、それを食い止めようと大切な幼馴染が日々命を懸けて戦おうとも。


「そう不安そうな顔しないでくださいよ」


不意に頬をつねられた。
ファシアスが穏やかな、それでいて力強さを感じさせる微笑を浮かべていた。


「この豊かで美しい国は、俺たち武人が絶対に守る」

「ファシアス…」

「あんたがその身を犠牲にして守ってくれているこの国を、ハゲタカみたいな外国の連中になんてくれてやるかよ」


アンバーは思わず目をそらした。
春一番の疾風のように胸の中が激しく揺れて、剣のように鋭いファシアスの目を、これ以上見つめられなかったから。

ファシアスは時折、こういう目でアンバーを見る時がある。
この目に射られると、決まってアンバーは胸に痛みに近い苦しさを覚えて目をそらしてしまう…。

アンバーは悪戯にやわやわと頬をつねり続けるファシアスから逃れると、明るい口調で話を変えた。
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