冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「グレイス様は、ワタクシを必要としてくださっているの! お前に目の前をうろうろされると迷惑なのよ!」

 鈍く光る切っ先から、壮絶な恐怖が襲い来る。
 迫る危機から逃げなければと後ずさる足を合図にしたように、メリーが短剣を振りかざした。
 それが落とされる前に、身を翻す私の動きは自分でも驚くほど俊敏だった。

「待ちなさい!!」

 祭壇の脇には、司祭がよく出入りしている通路がある。
 咄嗟の判断でそちらへと駆け出し、襲い来る脅威から精一杯の力で逃げた。
 もつれそうになる足をなんとか持ちこたえさせ外に出る。
 慌てていて閉め損ねた扉から、メリーが凄まじい形相で追いかけてきた。

 礼拝堂の裏手はすぐに、薔薇園を囲う生垣がある。
 とにかく身を隠さなければと、ためらいなくその緑の入口に駆け込んだ。
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