冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「フィリーナ!!」
遠くからメリーの声が迫ってくる。
どくりどくりと心臓が壊れそうな音で早鐘を打つ。
咲き誇る薔薇達は、優しい香りでフィリーナの身を隠してくれた。
不意に思い出したのは、頬に触れた優しい指の感触。
――“私が君を守ろう”
家臣から逃げるディオンのやんちゃな幼い表情を思い出した。
――ディオン様……!
ここにいらっしゃるのかどうかもわからないのに、幻聴として聞こえる澄んだ声の方へ震える足を進ませる。
向かうのは、最初ここでお話させていただいた場所。
人目をはばかって呼び出された、あの小さな丸い屋根のあるところだ。
薔薇の壁から頭を出さないよう身を屈めて進む。
そこにディオンがいなかったとしても、司教が使っている薔薇の手入れの道具が仕舞われている納屋がある。
身を守るにはその中なら十分で、もしものときは、刃物に立ち向かえるだけの道具は何かしらあるはずだ。
ある意味自分で蒔いた種。
グレイスの甘い言葉に惑わされて、直接的なものは避けられたけれど、結果的にディオンの心には傷をつけることになってしまった。
遠くからメリーの声が迫ってくる。
どくりどくりと心臓が壊れそうな音で早鐘を打つ。
咲き誇る薔薇達は、優しい香りでフィリーナの身を隠してくれた。
不意に思い出したのは、頬に触れた優しい指の感触。
――“私が君を守ろう”
家臣から逃げるディオンのやんちゃな幼い表情を思い出した。
――ディオン様……!
ここにいらっしゃるのかどうかもわからないのに、幻聴として聞こえる澄んだ声の方へ震える足を進ませる。
向かうのは、最初ここでお話させていただいた場所。
人目をはばかって呼び出された、あの小さな丸い屋根のあるところだ。
薔薇の壁から頭を出さないよう身を屈めて進む。
そこにディオンがいなかったとしても、司教が使っている薔薇の手入れの道具が仕舞われている納屋がある。
身を守るにはその中なら十分で、もしものときは、刃物に立ち向かえるだけの道具は何かしらあるはずだ。
ある意味自分で蒔いた種。
グレイスの甘い言葉に惑わされて、直接的なものは避けられたけれど、結果的にディオンの心には傷をつけることになってしまった。