冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「手にしているものを、あちらへ放りなさい。でないと、こちらも然るべき対処をする」
「その娘を庇いながら、そのような短剣でどうなさるおつもりです? どうやってあたくしを処罰なさるのですか」
ディオンの背中に隠れ、メリーの姿は見えなくても、こちらへ迫る足音がにじり寄ってくるのがわかる。
怖いはずなのに、目の前で広げられる腕が安心感をくれる。
危険がすぐそこに迫っているのに、フィリーナの心はとても場違いな感情で溢れ返っていた。
「すぐお退きになって下されば、ディオン様には何も致しませんわ」
ディオンへ向けるメリーの声があまりにも普段通りで、逆にそれが恐ろしい。
冷静なままで刃を向けていることが、人の形を悪魔に見せるには十分らしかった。
「お前がそれを引かなければ、私を手に掛けた罰を、他の者が与えることになるだろう」
「そうでございますね、ワタクシは王太子と使用人を手に掛けた罪人となることでしょう。ですが……」
二人の会話が、決して望まない最悪の未来を見せる。
「辿る道がわかっているのならもういっそ、今ここで、グレイス様の望みを叶えるのみ!」
「その娘を庇いながら、そのような短剣でどうなさるおつもりです? どうやってあたくしを処罰なさるのですか」
ディオンの背中に隠れ、メリーの姿は見えなくても、こちらへ迫る足音がにじり寄ってくるのがわかる。
怖いはずなのに、目の前で広げられる腕が安心感をくれる。
危険がすぐそこに迫っているのに、フィリーナの心はとても場違いな感情で溢れ返っていた。
「すぐお退きになって下されば、ディオン様には何も致しませんわ」
ディオンへ向けるメリーの声があまりにも普段通りで、逆にそれが恐ろしい。
冷静なままで刃を向けていることが、人の形を悪魔に見せるには十分らしかった。
「お前がそれを引かなければ、私を手に掛けた罰を、他の者が与えることになるだろう」
「そうでございますね、ワタクシは王太子と使用人を手に掛けた罪人となることでしょう。ですが……」
二人の会話が、決して望まない最悪の未来を見せる。
「辿る道がわかっているのならもういっそ、今ここで、グレイス様の望みを叶えるのみ!」