冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
――ダンスなんて、したことはないけれど……
見よう見まねで、軽くステップを踏んでみる。
1、2、3……1、2、3……
たしかこんな風につま先を先に置いて……
前についた右足を軸にして、真後ろへと振り返ると、足元でエプロンを付けたスカートがひらりと優雅に靡いた。
あの空色の艶やかなドレスを重ねて、頬が上気する。
――もし私が、上流の家庭に生まれていたら、ディオン様と踊ることができたのかしら……
夢を見るだけなら、誰にも迷惑はかけない。
身分も世の理も、夢の中なら関係ないから。
ステップを止めて月を見上げる。
まん丸の輝きだけが、フィリーナの心を見透かしているよう。
膨らむ気持ちが苦しくて、胸に手を当てた。
――ディオン様……
思い浮かべる麗しい顔に、鼓動は高鳴る。
――いつの間に、私の心はこんなにもあの方でいっぱいになっていたのだろう。
私を守ると言ってくださった言葉も、目の前に立ちはだかってくださった背中も……
決して私のものにはならないのに……
見上げた月の輪郭が夜空に溶ける。
滲んだ目元を堪えて、視線を落とした。
こんなところで油を売っている場合ではない。
どんなに恋い焦がれても変わらない現実は、フィリーナを夢の世界から放り出す。
ようやく気を取り戻して、仕事に戻ろうと頭を切り替えた。
見よう見まねで、軽くステップを踏んでみる。
1、2、3……1、2、3……
たしかこんな風につま先を先に置いて……
前についた右足を軸にして、真後ろへと振り返ると、足元でエプロンを付けたスカートがひらりと優雅に靡いた。
あの空色の艶やかなドレスを重ねて、頬が上気する。
――もし私が、上流の家庭に生まれていたら、ディオン様と踊ることができたのかしら……
夢を見るだけなら、誰にも迷惑はかけない。
身分も世の理も、夢の中なら関係ないから。
ステップを止めて月を見上げる。
まん丸の輝きだけが、フィリーナの心を見透かしているよう。
膨らむ気持ちが苦しくて、胸に手を当てた。
――ディオン様……
思い浮かべる麗しい顔に、鼓動は高鳴る。
――いつの間に、私の心はこんなにもあの方でいっぱいになっていたのだろう。
私を守ると言ってくださった言葉も、目の前に立ちはだかってくださった背中も……
決して私のものにはならないのに……
見上げた月の輪郭が夜空に溶ける。
滲んだ目元を堪えて、視線を落とした。
こんなところで油を売っている場合ではない。
どんなに恋い焦がれても変わらない現実は、フィリーナを夢の世界から放り出す。
ようやく気を取り戻して、仕事に戻ろうと頭を切り替えた。