冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
何を聞かれたのか、意図がよく掴めずにはたと顔を上げる。
「綺麗に片付けられてはいたようだが、破片でどこか怪我でもして、手当てのためにいなくなったのかと思っていたが……大丈夫だったか?」
「……ッ!!」
不安そうに見つめてくる漆黒の瞳に、かっと顔の熱が上がる。
自分があの場にいたことを知っていたことにも驚いたのに、怪我の心配をしてくれていることも、あそこからいなくなったことを気にしてくれていたことも、……ディオンの優しい心が、フィリーナの心臓を貫くには十分だった。
「だ、大、丈夫……でございます。わたくしはなんとも……」
「本当に?」
フィリーナの答えを疑うディオンはじりとにじり寄り、顔の火照りを隠すようにうつむいた赤茶色の髪に手を伸ばされた。
近くに寄る気配に、脈は大いに乱される。
ふわりと耳元に大きな掌の温かさを感じたかと思うと、おもむろに高貴な顔が反対側へ寄せられた。
「フィリーナ」
「は、はい……っ!」
目と鼻の先にある艶めかしい首筋。
思いがけない近さに返事が裏返る。
強く漂う薔薇の香りが眩暈を誘った。
「綺麗に片付けられてはいたようだが、破片でどこか怪我でもして、手当てのためにいなくなったのかと思っていたが……大丈夫だったか?」
「……ッ!!」
不安そうに見つめてくる漆黒の瞳に、かっと顔の熱が上がる。
自分があの場にいたことを知っていたことにも驚いたのに、怪我の心配をしてくれていることも、あそこからいなくなったことを気にしてくれていたことも、……ディオンの優しい心が、フィリーナの心臓を貫くには十分だった。
「だ、大、丈夫……でございます。わたくしはなんとも……」
「本当に?」
フィリーナの答えを疑うディオンはじりとにじり寄り、顔の火照りを隠すようにうつむいた赤茶色の髪に手を伸ばされた。
近くに寄る気配に、脈は大いに乱される。
ふわりと耳元に大きな掌の温かさを感じたかと思うと、おもむろに高貴な顔が反対側へ寄せられた。
「フィリーナ」
「は、はい……っ!」
目と鼻の先にある艶めかしい首筋。
思いがけない近さに返事が裏返る。
強く漂う薔薇の香りが眩暈を誘った。