冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「まるで、嫉妬でもしているような物言いだな」

 頬にあった掌は、おもむろにフィリーナの後頭部へと回り込む。
 言われた意味を理解する間もなく、ぐっと高貴な胸元へと引き寄せられた。

「いや……私の方が、そうであってほしいと都合よく思っているだけなのかもしれない」

 頬に触れていた掌よりもずっと温かな場所から、くつくつと軽く笑う声が耳に直接響いてくる。

「ディ、ディオン様……?」

 自分の置かれている状況に頭が追いついてこなくて、目がぐるぐると回りだした。

「あ、あの……」
「心配しては、迷惑だったか?」
「え……」

 ――迷惑、だなんて少しも思いはしなかったけれど……

「心配、してくださったのですか……? わたくしなんかを」

 ぴたりとくっついた胸の中。
 ささやかな鼓動が聞こえる。
 
 ――少し急いているような気がするのは、緊張なさっているから……?
 それは、どうして、なのですか――……
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