冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 夜と同じ色をしているのに、ディオンの姿は決して闇夜に溶けることなく、月明かりを受け、ますます神々しく見える。
 近くにいるのに、少し遠い。
 
 ――本当はもっと、……もっとおそばにいたいと、そんなことを言ってしまってもいいのでしょうか……

「とても優雅で、お似合いでした、レティシア様とのダンス」

 ――ああ私は、いつからこんなに欲深な思いを膨らませるようになってしまったんだろう。

「誰もが溜め息を吐くようなお二人のお姿が、……羨ましくて仕方ありませんでした」
「フィリーナ……」

 視界が揺れる。
 顔が熱い。
 これではもうほとんど、自分の想いを告げてしまったようなものだ。

「それならば……」

 はち切れそうな胸を押さえる両手が震える。
 それを解き放つように、ディオンはフィリーナの小さな手を長い指で絡め取った。

「一曲、お相手願えますか? 姫君」
「え……っ」

 強く引っ張られたかと思うと、またフィリーナはディオンの腕の中に収まる。
 腰を引かれそこから見上げると、月明かりを瞳に込めたディオンが、柔らかく微笑みかけてくれていた。
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