冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
――あ……
……そうだった。
ディオン様には以前、私がグレイス様をお慕いしていると打ち明けたのだったわ。
だけど……
「あれには君のような女性が必要なのかもしれない。
素直で、真っ直ぐで……純粋で」
これはきっと褒め言葉をもらっているはずなのに、ディオンがひとつひとつくれるたび、膨らんだ胸に棘が刺さっていくようだ。
「すまなかった。不躾なことをしてしまって」
はらりと温かさが解かれる。
刺さった棘は抜けないまま、胸に痛みを走らせた。
「さあ戻ろう。私はまだ言葉を交わしていない客人に挨拶をしなければならない。一人抜けてしまった分、今夜は君もまだまだ忙しいだろう」
柔らかだった表情は、止んだ夜風とともに消されてしまったかのよう。
瞬いた漆黒の瞳は、そこにあった煌めきを瞼の裏に隠し、いつものように手の届かない気高い雰囲気を醸された。
……そうだった。
ディオン様には以前、私がグレイス様をお慕いしていると打ち明けたのだったわ。
だけど……
「あれには君のような女性が必要なのかもしれない。
素直で、真っ直ぐで……純粋で」
これはきっと褒め言葉をもらっているはずなのに、ディオンがひとつひとつくれるたび、膨らんだ胸に棘が刺さっていくようだ。
「すまなかった。不躾なことをしてしまって」
はらりと温かさが解かれる。
刺さった棘は抜けないまま、胸に痛みを走らせた。
「さあ戻ろう。私はまだ言葉を交わしていない客人に挨拶をしなければならない。一人抜けてしまった分、今夜は君もまだまだ忙しいだろう」
柔らかだった表情は、止んだ夜風とともに消されてしまったかのよう。
瞬いた漆黒の瞳は、そこにあった煌めきを瞼の裏に隠し、いつものように手の届かない気高い雰囲気を醸された。