冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「レティシア様のために、グレイス様は悪魔に身売りなさろうとしていらっしゃるのですよ……?」
「ええ、そのようね」
「……え……?」


――そのようね……?

 それでは、まるで他人事。
 愛する人が人道に反することをしても、レティシアは何も感じないのだろうかと、フィリーナは目元をしかめた。

「だけど結局、完全には身を売りきれていらっしゃらないようね。さすがにご自分で、実の兄に手は掛けられないのだわ」

 ――な、ぜ……
 レティシア様は事態をご存じにもかかわらず、落ち着いていらっしゃるの?
 愛する人が罪を犯そうとしているのに、それを正そうとするどころか、事を致せないことに落胆されているようで……
 愛は、人を……こんな形で盲目にするものなの……?

 だけど、そう思ってはみても、思い切りそれを否定することはできない。
 フィリーナ自身、グレイスの甘さに溺れ、人道に外れることを致そうとしたのは事実なのだから。
 でも――……

「グレイス様が人の道を外されてしまわないよう、わたくしが進むべき道を導いてさし上げます」

 ――私は、私にできることをすると決めたの。
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