冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
*


 拭いきれない違和感をもやもやと抱えたまま、レティシアの部屋の前から立ち去る。
 けれど、一歩一歩足を進めるごとに、ちらつく違和感はフィリーナを引き止めようとしていた。

 ――レティシア様は、グレイス様のお気持ちを考えてはいらっしゃらないの……?
 どんな思いで、レティシア様との幸せを望んでいらっしゃるか。
 実の兄を邪険に思ってしまうほど、レティシア様を愛していらっしゃるのに。

 ――“あたくし達はただ幸せになりたいだけよ”

 幸せになりたいのなら、グレイスが犯そうとなさった過ちは、妨げにはならないのだろうか。
 もし、本当にグレイスがディオンを手に掛けられることがあったとして、そのあと、グレイスが罪に問われないとも限らないのに。

 ――レティシア様はそれでもかまわないと思っていらっしゃるの?
 グレイス様の過ちを知りながら、まるで他人事のようにおっしゃられたのは、どうして……?
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