冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 不意に過るのは、クロードとレティシアの距離感。
 フィリーナが部屋に入ったとき、レティシアはまさにそのときに寝着を羽織ったように見えた。
 つまり、その瞬間までは、あの白い肌を晒していたということ。

 行きついた考えに、心臓がどくりと嫌な音を立てた。
 侍女も従えてこなかったのに、フィリーナのことはわざわざ呼びつけた。

 使えない小娘に余計なことをさせまいと、脅しを掛けるためだったのだということはわかったけれど、着替えのお手伝いは不要だったなんて、違和感がありすぎて仕方がない。
 あの煌びやかなドレスを脱ぎ、一人でコルセットを解くことは難しいはず。

 ――だとしたら、騎士団長様の前でお着替えをなさったの?

 主に仕える従者として、何事にも手助けをするのは当然の務め。
 だけど、婚姻も結んでいない男性に素肌を晒し、着替えを手伝ってもらうことなんて、ありえるのだろうか。

 考えれば考えるほど、違和感の正体が形を現していくようだ。
 激しく騒ぎ出す胸に、頭が痛くなる。
 もしかしたら、気づいてはいけないことに、勘を働かせてしまったのかもしれない。
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