冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
――もしも、レティシア様と騎士団長様がただならぬご関係にあるとするなら……
「フィリーナ」
自分の胸の鼓動を喉の奥に感じながら歩いていると、名前を呼ぶ澄んだ声にはっと顔を上げた。
「ディオン様」
「顔色が悪い、どうかしたのか?」
いつの間にか辿り着いていたのは、グレイスの部屋の前。
レティシアのいる客室から戻る途中にある部屋の扉の前で、ディオンがフィリーナに声を掛けた。
「い、いえ、大丈夫でございます」
どきりとしたのは、ディオンの優しい心が、また自分ごときを心配してくれたこと。
そして、気のせいであってほしいと思う憶測を悟られてしまわないだろうかと焦ったせいだ。
「ディオン様は、どうなされたのですか? もうお休みになられていたのでは……」
「ああ、グレイスに少々話があってな。今しがたイアンには下がってもらったところだ」
「お話、でございますか……」
一体何の、と聞けるはずはないけれど、イアンを下がらせるほど親密な話であることは分かる。
それなら、自分もここからは早々に離れた方がいいだろうと頭を下げて、フィリーナは「失礼いたします」と立ち去ろうとした。
「フィリーナ」
自分の胸の鼓動を喉の奥に感じながら歩いていると、名前を呼ぶ澄んだ声にはっと顔を上げた。
「ディオン様」
「顔色が悪い、どうかしたのか?」
いつの間にか辿り着いていたのは、グレイスの部屋の前。
レティシアのいる客室から戻る途中にある部屋の扉の前で、ディオンがフィリーナに声を掛けた。
「い、いえ、大丈夫でございます」
どきりとしたのは、ディオンの優しい心が、また自分ごときを心配してくれたこと。
そして、気のせいであってほしいと思う憶測を悟られてしまわないだろうかと焦ったせいだ。
「ディオン様は、どうなされたのですか? もうお休みになられていたのでは……」
「ああ、グレイスに少々話があってな。今しがたイアンには下がってもらったところだ」
「お話、でございますか……」
一体何の、と聞けるはずはないけれど、イアンを下がらせるほど親密な話であることは分かる。
それなら、自分もここからは早々に離れた方がいいだろうと頭を下げて、フィリーナは「失礼いたします」と立ち去ろうとした。