冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「あたくしは、母のような失態を犯して人生を棒に振るようなこといたしませんわ。
 惨めなままで生涯を終えるつもりはございませんの」
「レティシア、まさか君は――……」

 何かに気づいた様子のディオンに、レティシアはくすりと笑いを零した。

「次期国王となられるお方はとても賢いようですわ。バルト国王の元で、それはそれは十分な教育を受けてお育ちになられてきたのでしょうね」
「私に苦しみながら消えてほしいと思っていたのは、君の方だったのか」
「男性と言うだけで裕福な生活を与えられてきたお兄様に、あたくしが嫉妬を抱かないわけはないでしょう?」
「そのためにグレイスを……」

 はっとしてグレイスの姿をとらえると、レティシアに差し伸べられていた手はいつの間にか下ろされ、表情の見えない後ろ姿の辛いであろう心が、フィリーナの胸を締め上げた。

「ヴィエンツェ国王女、レティシア・ヴィエントに告ぐ」

 真っ直ぐに背筋を伸ばしたディオンは、その場を取り仕切るように声を上げる。
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