冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「そうだ。話したところで、レティシアは何の罪にも問われないからな。あれは何ひとつ手を汚してなど……」
「グレイス様が直接お聞きになられたのですか?」
「ああ、そうだが」

 ――なぜそんな無慈悲なことを……

 愛していた人の口から、裏切りの言葉を聞かなければならなかったグレイスの気持ちを考えると、口唇を噛んでしまうほどいたたまれない。
 痛む心を押し込めているであろうグレイスを見上げていると、長い指がぱちっとフィリーナの額を弾いた。

「お前はまた、そんな目をする」
「え?」
「同情するならお門違いだ。
 僕が今やるべきなのは、ディオン・バルティアに滞りなく王位を継承してもらうことだ。
 いつまでも未熟だった自分の心に酔いしれてなどいられない」

 ――ディオン様に、王位を……

 碧い瞳で真っ直ぐにフィリーナを見つめ、よどみない声が強い思いを語る。

 グレイスは本当に目を覚ましたのだ。
 未熟だったと自身の過ちを認めている。
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