冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「罰を受けることがあるのなら、“ディオン国王”に、甘んじて受ける覚悟だ」
「罰なんて、そんな……」
「だからお前は、兄さんの心配だけしていればいい。いつ目覚めてもいいようにそばにいてやれ」
「グレイス様……」
「それから」

 踵を返そうとした足を止めると、グレイスはゆっくりと瞬いてから、静かに言った。

「すまなかった……
 お前の純真な心に付け込んで、……自分の欲望のためだけに、お前のその手を拭いきれないような罪で汚してしまうところだった」

 そっと伏せられる瞼に、心からの反省を見る。
 少しも責めようとは思っていなかったのに、謝罪の言葉を述べられたことに、感激すら覚えた。
 
 いくら『終わっている』と言っても、グレイスの心は痛んでいないわけではないはずだ。
 それを乗り越えるほどの使命感が、彼を立ち直らせたのだ。

「わたくしは、グレイス様のお心の方がよほど純真だと思います。
 貫こうとされたレティシア様への愛は、グレイス様の純粋さゆえのものだったのですから」

 瞼を持ち上げ、揺らめきを込めた碧い瞳がまたじっと見つめてくる。
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